大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和32年(う)927号 判決

被告人 呉座太二郎

〔抄 録〕

A弁護人の控訴の趣意第一点について。

所論に鑑み記録を精査するに、昭和三十一年十月三十一日付原審第三回公判調書及び同調書添付の証拠関係カードの各記載によれば、同公判において、被告人は被告事件に対する陳述として、追起訴状の公訴事実犯罪一覧表の1の一、薄茶ギャバズボン一本、2の茶色杉綾背広上下一着、3の三、ひすい帯止一個、四の十四、金帯止一個、4の二、ウーステット地縞ズボン一本、6のクローム側十型腕時計一個、10の女形ウオルサム白銀側腕時計一個は買つた覚がない旨の陳述をしたこと、検察官から論旨に指摘する林鴻一、有吉久雄、井上ちゑ、志村孝子、安達祐四郎、平山雅子の各被害届謄本、安達祐四郎の答申書及び盗難届を他の書証と共に証拠調の請求をし、右各書証について弁護人が被告人の否認している分を除いて同意する旨意見を述べたこと、原審は右各被害届謄本、答申書及び盗難届を他の書証と共に証拠調をする旨の決定をして全部その取調をしたことを認めることができるし、原判決において右八通の書証全部を事実認定の証拠として採用していることが明白である。右公判における検察官の証拠調請求に対する弁護人の意見は、どの書証の取調及び証拠とすることについて不同意なのであるか甚だ不明確であつて、必ずしも適切な訴訟行為とはいえないのであるが、同公判における被告人の冒頭陳述が前記のとおりであるから、すくなくとも被告人が右陳述において買受の事実を否認した物品に関する被害者の被害届、盗難届、答申書等の書面は、弁護人として証拠調をすること及び証拠として採用することに同意しなかつた趣旨と解せられないことはない。従つて原審が前記書証八通について弁護人の同意があつたもののように取り扱い、全面的にこれが証拠調をし、且つ判決において犯罪事実認定の証拠として採用していることは(所論のような刑事訴訟法第三百七十八条第四号の理由のくいちがいある違法には該当しないが)採証の訴訟手続に関する法令違反の措置といわざるを得ない。しかし原判決が証拠として挙げている被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書の記載並びに原審証人小島省三の原審第五回公判期日における証言を総合すれば、前記被害者六名の盗難物品に関する原判決添付犯罪一覧表15、16、17、18、20、24記載の各事実(但し18のうちズボン二点を除く)を認めることができるから、結局原審の前記訴訟手続の法令違反は、判決に影響を及ぼさないものというべく、右の瑕疵は原判決を破棄する理由とはならない。それ故論旨は採用できない。

(中村光 久永 鈴木)

註 本件破棄は刑訴法第三七八条第四号

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!